葡萄が目にしみる

葡萄が目にしみる 林 真理子

葡萄づくりの町。地方の進学高校。
自転車の車輪を軋ませて、乃里子は青春の門をくぐる。
生徒会の役員保坂に寄せる淡い想い。
ラグビー部の超スター岩永との葛藤。
そして、笑いさざめき、かすかに憎しみ合う級友たち―。
目にしみる四季の移ろいを背景に、素朴で多感な少女の軌跡を鮮やかに描き上げた感動の長編小説。

葡萄が目にしみる。
なんて素敵なタイトルなんでしょう。
このタイトルで筆者のセンスが伺えます。
そして書き出しの一行目で心奪われてしまいました。
それはもう、「雪国」や「我輩は猫である」に肩を並べるほどの。

ひさしぶりに良い本と出会えた、そんな思いにさせてくれました。
誰しもが通ってきた学生時代の、甘酸っぱくて苦々しくて、
それでも今思うと輝いていたであろう、そんな季節を瑞々しい文章で綴られた青春小説。
青春小説って山ほどあるけれど、ほんとに良い本って少ないんですよね。

この「葡萄に目がしみる」は、下手な事件や派手な物語の展開で脚色されていない、
泉から掬った無色透明な水のような、ピュアでクリアな物語です。
筆者の筆力も素晴らしい。
立て板に水を流したようなスラスラと読める文章の中に、
大人の階段を上がろうとする、まだ危うい年頃のそのぎこちなさや恥じらいが、
まるで筆者が今その年頃であろうかのごとく、
大人には気付かない細かい心理描写を見え隠れさせています。

葡萄が目にしみる

今ではこの言葉を思い返すだけで、胸の奥でぐっとくるものがあります。

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